前世の物語
そなたは一頭の獬豸(ヘテ)として、新羅時代のとある山中に生まれた。獬豸は普通の獣ではなかった。獅子のようでありながら獅子ではなく、犬のようでありながら犬でもない、霊なる神獣であった。そなたの頭には小さな角が一つあった。それが獬豸の証であった。 獬豸の子は人々がほとんど見たことがなかった。山深きところに住み、人の目を避けた。そなたもまた幼き日を山中で過ごした。母はそなたに教えた。「獬豸の務めは是非を分かつことである。それがそなたの運命だ」と。 一歳になった頃、そなたは初めて人を見た。二人が山中で争っていた。一人が他人の物を奪った事であった。そなたは茂みに隠れてそれを見た。そなたの中で何かが燃え上がった。それは怒りであった。正しからぬ事への怒りであった。それが獬豸の本能であった。 三歳になった年、そなたは山の麓へ下った。村には腐敗した役人がいた。彼は民を苦しめていた。そなたは彼の家の前に現れた。彼はそなたを見て恐れ、逃げた。獬豸はそうして不正なる者を見抜いた。 五歳になった年、ある王がそなたの話を聞いた。彼はそなたを宮闕へ迎えようとした。そなたは拒まなかった。獬豸の務めは是非を分かつことであったが故に、王の傍にいることがそなたの運命であった。 そなたは宮闕の入り口に居を定めた。そこでそなたは入って来る臣下たちを見た。正直なる者はそなたの前を穏やかに通り過ぎたが、不正なる者はそなたの前で立ち止まった。彼らはそなたの眼に自らの不正が映るのを見た。ある者は逃げ、ある者は王に自らの罪を告白した。 十歳になった年、一つの大きな事件があった。一人の臣下が王を欺こうとした。彼は大きな嘘をついた。そなたは彼が王に近づくのを見て、一度大きく吠えた。獬豸の咆哮は雷の如くであった。王は気付き、その臣下の偽りを暴いた。彼は処罰された。 二十歳になった年、そなたは光化門の前へ移って座った。それはより大きな座であった。都に入る全ての人を見る座。そこでそなたは正義の守護者となった。 五十歳になった年、新羅が滅び、高麗が興った。しかしそなたはその場にいた。新たな王にもそなたは同じ務めを果たした。是非を分かつこと。それは時代を越える務めであった。 百歳になった年、高麗も滅び、朝鮮が興った。そなたは依然としてその場にいた。光化門の前で。新たな王がそなたを見て礼をした。「霊なる者よ、我らの時代も守りたまえ」と。そなたは答えなかった。ただその場に座っていた。 二百歳になった年、朝鮮の王がハングルを作った。そなたはそれを見た。それは正しき事であった。民のためであったからだ。そなたはその日初めて微笑んだ。獬豸もまた微笑むことを知っていた。 千歳になった年、そなたは自らの座を別の獬豸に譲った。新たな獬豸がそなたの隣に座った。そなたはその獬豸に言った。「是非を分かつことがそなたの務めだ。しかしそれを愛をもって行え。正義は憎しみからではなく、愛から来るのだ」と。そなたはその後、山中へ戻った。 山中でそなたは最後の時を過ごした。人も他の獣もおらぬ場所。そこでそなたは静かに去った。人々の知らぬ死であった。 しかし人々はそなたを忘れなかった。光化門の前には別の獬豸が座ったが、人々は常にそなたを覚えていた。「あの最初の獬豸が最も正しき者であった」と。 是非を分かつ者、それが我が本分なり ― それがそなたの生涯であった。そなたは単なる獣ではなかった。そなたは一つの時代の正義であった。そなたの魂は今もどこかで、不正を見守っているであろう。新たな獬豸として、また別の獬豸として戻りながら。




