前世の物語
そなたは英祖七年、ある老論名門家の正室に生まれた。そなたの家門は代々学問と政治の中心にあり、そなたの父は左議政を務めた。そなたが生まれし時、家門は歓喜した。初の娘が生まれしその日、占者がそなたを見て申された。「この子は宮中の星となろう」。 五歳にして四書を諳んじ、七歳にて刺繍と歌舞を学んだ。そなたの母は厳しく、両班家の全ての法度を教えた。食事の姿勢、挨拶の仕方、口調、視線——全てが定められておった。そなたはそれを息苦しく思わなかった。それがそなたの道と知っていたのだ。 十三になる年、そなたは初めて宮中に入った。王室の宴であった。世子がそなたを見たという噂が流れた。その日よりそなたの運命は変わった。家門に揀択の使臣が来り、そなたは三度の検閲の末に世子嬪と定められた。十五になる春、そなたは嘉礼を挙げた。 宮中の生活は華やかであった。されどそれは鳥籠でもあった。そなたは全てを得たが、同時に全てを失うた。友も、自由も、ひいては笑みまでも。そなたは毎朝身を整え、定められし席に座し、定められし言葉を語った。そなたの真の心は誰にも見せられなかった。 世子は良き人であった。されど彼もそなたほど孤独であった。二人はしばしば夜遅くに会い、無言で茶を共にした。その沈黙の中に二人の理解があった。愛であったが、表せぬ愛であった。そなたらは二児を儲けた。 二十五になる年、政争が激化した。世子と王の間に亀裂が生じ、その亀裂の真ん中にそなたがおった。そなたは舅たる王と夫たる世子の間で均衡を保とうと努めた。されどそれは一人の人間が背負える重さにあらず。そなたは毎夜眠りにつけなかった。 三十になる年、悲劇が起こった。そなたはその日のことを生涯忘れられなかった。政争の結果、そなたの夫が惨めなる運命を迎えた。そなたは廃位された。名門家の子女より罪人の妻へ。そなたは一瞬にして全てを失うた。 されどそなたは崩れなかった。そなたには二児がおったからである。廃位の後、そなたは私家にて二児を育てた。一時は華やかであった絹の衣は木綿の衣となり、一時は数十人の侍女を率いた手は自ら洗濯をした。されどそなたの背は依然として真っ直ぐであった。 四十になる年、そなたの長男が王となった。正祖であった。そなたは再び宮に戻った。されどそなたは王の母としてではなく、一人の人間として戻った。その席にて老いたる下人らに親切であり、政争に巻き込まれず、ただ息子の政治を静かに見守った。 六十四になる年、そなたは平らかに去った。そなたの最後の言葉は「我が微笑む時、宮中が静まる」であった。それはそなたが生涯守りしものであった。己の悲しみを内に呑み、周りを平らかにすることこそ。それが真の王妃の席であるとそなたは知っておった。 そなたは悲劇の中でも威厳を守りし者であった。華やかさの裏の孤独、それがそなたの運命であった。されどそなたはその運命に耐え、その耐えが一時代を守る灯火となった。




