前世の物語
そなたは英祖十八年、ある平民の家門に生まれた。そなたの父は里の鍛冶屋であり、そなたの最初の子守唄は鞴の音と槌の音であった。最初の風景は赤き炉の火であった。幼き頃よりそなたの目はその火に馴れた。 五歳にして鞴を握った。小さき手にて鞴を押し引きしながら、火が生きるを見た。七歳にて槌を持った。初めはあまりに重く落としてしまったが、間もなくその重さに馴れた。そなたの手が固くなり始めた。 十歳になる年、初めて小さき釘を作った。父はその釘を見て長く沈黙した後申された。「鉄は嘘を語らず。お前が誠を込めれば鉄も誠を知る」。そなたはその言葉を生涯忘れなかった。 十五になる年、本格的な弟子となった。毎暁より夜まで鍛冶場に住んだ。農具、刀、釘、馬蹄——全てを作った。そなたの手は荒れ、肩は固くなり、腕には小さき火傷の痕が増えていった。されどそなたはそれを誇った。それは働く者の勲章であった。 二十にして己の鍛冶屋を持つに至った。父が老いて仕事を辞めし時、そなたが店を継いだ。父より上手くは出来ぬ。されど父よりも正直であった。一本の釘とて疎かに作らず。人々はそなたを信頼した。 二十五になる年、そなたは一人の処女を迎えた。同じ里の平民の処女であった。彼女は勤勉であり、そなたほど寡黙であった。二人は言葉少なきも、互いを深く理解した。そなたらは三児を儲けた。長子と次子は息子であり、末子は娘であった。 三十になる年、そなたの里に大いなる旱魃が訪れた。農夫らは農具を買う銭がなかった。そなたは掛けにて農具を作って与えた。返せぬ者もあったが、そなたは一度も督促せず。「鉄は嘘を語らずも、人の事情は理解すべし」。それがそなたの言葉であった。 三十五になる年、大きな任務を受けた。漢陽のある官庁よりそなたに刀を依頼したのだ。軍用の刀であった。そなたは一年をその仕事に懸けた。毎暁炉に火を入れ、毎夜槌を打った。一振り、また一振り、皆誠を込めて作った。それらの刀は後日辺方の武官らに渡り、民を守るに用いられた。そなたはそれを誇った。 四十になる年、長子が鍛冶屋を継ぎ始めた。そなたは子に己が全てを教えた。「鉄は嘘を語らず」。その一言を子にも伝えた。 五十になる年、そなたの手が震え始めた。槌を持つが益々辛くなった。されどそなたは止まらなかった。子の傍にて小さき仕事を手伝った。釘を磨き、鞴を押す。それのみにてもそなたは幸せであった。 五十五のある冬、そなたはいつものように炉の傍にて眠りについた。翌朝、子がそなたを見つけし時、そなたの手には小さき釘が握られておった。そなたは最後まで働きしまま去ったのだ。 そなたの鍛冶屋は子が継ぎ、孫が継ぎ、その子孫が百年を経るまでその場にあった。そなたが作りし刀は博物館に納められ、そなたが作りし農具は農夫らが代々用いた。 そなたは堅き者であった。鉄の如く堅く、鉄の如く正直であった。そなたの手が作りし全てに、そなたの魂が宿っておった。それがそなたが生涯守りし約束であった。




